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農業と科学 平成21年9-10月
本号の内容
§新会社「ジェイ力ムアグリ株式会社」について
代表取締役社長 佐藤 健
§水稲湛水直播栽培に適した肥効調節型肥料の配合
岩手県農業研究センタープロジェクト推進室
主任専門研究員 日影 勝幸
§食用ナバナの肥効調節型肥料を用いた減肥栽培
千葉県農林総合研究センター暖地園芸研究所
研究員 押切 浩江
代表取締役社長 佐藤 健

常日頃,「農業と科学」をご愛読いただいております皆様にお礼申し上げます。
この度,チッソ旭肥料(株)(親会社:チッソ(株),旭化成ケミカルズ(株))と三菱化学アグリ(株)(親会社:三菱化学(株))は肥料事業の統合に合意し,本年10月1日に新会社「ジェイカムアグリ株式会社」を設立しました。
肥料事業を取り巻く環境は,作付面積の減少や単位面積あたりの施肥量の減少などにより,国内肥料需要量が漸減傾向にあります。さらに,肥料原料の価格高騰の影響もあり,肥料事業の抜本的な合理化や効率化が不可避となっております。
このような状況下,国内農業の発展に貢献するために,事業基盤を強化し,肥料の安定供給力を増すとともに,農家のニーズに応える商品開発をスピーディーに行うことを目的として,両社の肥料事業を統合いたしました。
両社は,これまで化成肥料の安定供給を図る生産合理化策として,生産ラインの停止やチッソ旭肥料(株)から三菱化学アグリ(株)への生産委託などを行ってきておりますが,その相互信頼関係が基礎となり今回の事業統合となりました。
また,両社は,水稲,畑作の両場面での各種の化成肥料を始め,土中でゆっくり効く緩効性肥料,作物の養分吸収パターンに適合するように肥料の溶出をコントロールした各種の被覆肥料,水稲や野菜の育苗用の培土,植木の根元に打ち込む棒状肥料など,多種多様の商品構成で肥料事業を展開してきました。
新会社「ジェイカムアグリ株式会社」は,これまでの製造,販売,研究の実績をベースに「より良い商品の開発,経済効果を生むより良い施肥技術の開発と普及拡大」を大事にした「日本の農家ニーズにスピーディーに対応する会社」として,「日本の農業に必要な会社であると評価され続けられる」ことなどを肝に銘じて日々努力いたしますので,皆様のご協力ご支援の程,何卒よろしくお願い申し上げます。
最後に,日本の食糧自給率を向上させる長期ビジョンの農政が早期に実行されることにより,農業生産現場が盛り上がり若い後継者が育成され,農産物の安全安心が確保され,顔の見える国内農産物の消費量が増えて,自給率が60%以上になることを皆様とともに切望してやみません。
岩手県農業研究センタープロジェクト推進室
主任専門研究員 日影 勝幸
全国の直播栽培面積1)は,17,394ha(2007年)であり,10年前の7,972ha (1997年)に比較して218%と増加してきた。しかし,水稲作付面積に占める割合は,わずか1%程度,東北地方では,3,293ha(平成19年)と0.8%程度にとどまっている。
栽培法別には,湛水直播が11,788haで,直播栽培面積の68%,乾田直播が5,606haで32%を占めている。直播は省力・低コスト技術として重要な技術であることはいうまでもないが,東北地方では,春先の天候不順による「出芽不良」,「収量不安定」や「雑草防除」などが,直播面積増加に歯止めをかけている。
岩手県においても,直播栽培面積は増加してきており,210haのうち湛水直播栽培が92%を占めているが,収量が移植栽培に比較して15%程度減収することが大きな課題であった。
このことから,岩手県農業研究センターでは2007年から湛水直播栽培における「出芽安定化のための播種法」と「収量向上のための施肥法」の技術開発に取り組んできた。その中で,肥効調節型肥料である被覆尿素(商品名『LPコート』)を活用した,落水出芽期間中の窒素肥料の損失防止法について検討し,北東北においても,移植栽培並の収量が確保するための,肥効調節型肥料の活用方法を検討したので紹介する。
現在,湛水直播では播種後から出芽までの間,出芽を促進するため落水管理を行う「落水出芽法」が定着しているが,この落水期間中での肥料の損失が以前から指摘されている2)。岩手県内の湛水直播栽培では,移植栽培で使用している肥料銘柄を直播栽培に代用利用している場合が多く,窒素肥料の損失と窒素の肥効が,湛水直播栽培の生育相に合っていない場合もあり、これが十分な収量を確保できていない原因のひとつと考えられた。
図1に,移植栽培と比較した湛水直播栽培の層別の窒素肥料損失状況を示した。これによると,湛水直播栽培では,落水期間中において深さ15cmまでの土中窒素の損失が移植栽培に比較して早く,程度も大きいことがわかる。

また,施肥時期の違いによる検討では,播種後46日後の土壌中無機態窒素で, 「出芽時施肥」>「播種時施肥」>「代かき時施肥」の順であった(図2)。このことから,湛水直播栽培においては,播種後出芽までの落水期間中の窒素損失が大きく,出芽後施肥では土壌中無機態窒素の損失が小さいものと考えられる。

さらに,幼穂形成期の地上部乾物重では,「出芽時施肥」>「播種時施肥」>「代かき時施肥」の順に大きく,入水後の出芽時施肥では,窒素損失を防止でき,稲に有効に利用されていることが明らかとなった(図3)。

一方,参考区として試験した肥効調節型肥料(LPコート100)では,寒冷な北東北においては,溶出が遅いため初期生育の確保が難しい傾向であった(図2,図3)。
以上の結果を踏まえ,窒素損失を抑えつつ初期生育の早期確保を目的にLPコート30の実用性を検討することとした。さらに併せて,幼穂形成期の追肥を省略できるよう,幼穂形成期前後に窒素溶出が大きくなるLPコート70も混合した『専用肥料』を試作した。混合割合は,窒素溶出をシミュレーションし(図4),岩手の気温条件と直播水稲の生育に最適となるよう「LPコート30:LPコート70=5:3」とした。

この『専用肥料』の実用性を,農業改良普及センターと連携しながら,当センター内及び現地2カ所で検討した(試験区構成は,表1のとおり)。

専用肥料の実用化について検討した結果,慣行の施肥に比較して窒素吸収量は多く推移し,茎数及び穂数が増加した(図5,図6,図7)。



収量構成要素を見ると(表2),穂数及び一穂籾数が増加したことにより,収量(1.9mmふるい調製精玄米重)で,一般に使われている肥料に比較して,6~18%増収していることがわかる。

なお,金ヶ崎町現地においては,穂数が増加したことにより,稈長がやや長くなり,若干倒伏程度が高まったが,利用にあたっては,各土壌タイプや地域にあった適正な施用量の設定が重要である。
食味関連成分については,玄米タンパク質含有率への影響が懸念されたが,表3に示すとおり,玄米タンパク質含有率は慣行施肥並みであり,食味官能試験においても差は認められなかった。

専用肥料は,リン酸,カリを必要最低限に抑えた,直播専用肥料(商品名『直播用200』)として2009年から市販された。価格は,窒素肥料トータルで,これまで使用してきた一般の肥料とほぼ同等であり,基肥一発施用できることから湛水直播栽培において一層の省力化が図られることを期待しており,2009年度は,すでに約50ha(出荷量からの推定面積)で利用されている。
なお,乾田直播栽培への活用についても,現在検討を進めているところである。

1)水稲直播研究会 水稲直播種研究会誌(第26号)2008
2)九州沖縄農業研究センター主要成果集(第6集)
3)平成19,20 年度岩手県農業研究センター研究成果書(岩手県農業研究センターホームページ)
千葉県農林総合研究センター暖地園芸研究所
研究員 押切 浩江
食用ナバナはアブラナ科野菜で,茎や葉や花蕾を食用とする。稲刈り後の水田や畑で栽培され,次々と出てくる花茎を収穫し,収穫期間は長いものでは4ヶ月程度となる。収量・品質を落とさないためには適切な追肥が求められる。
通常は圃場全体に肥料を入れてから畦を上げて栽培するが,ここでは,肥効調節型肥料の条施用による減肥栽培と,移植栽培におけるセル内施肥による減肥栽培について紹介する。

肥効調節型肥料の溶出パターンとしては,エコロング424-40(以下エコロング40とする)が適していた。試験した9月下旬播種で12月下旬から収穫の作型で,収穫が終了する3月中旬における肥料の累積溶出率は,エコロング40では95%以上,エコロング70では80%程度となり(図1),厳寒期に収穫が続く食用ナバナではエコロング40が適していた。

肥効調節型肥料を全量基肥として施用すると追肥の手間は省けるが,収穫期後半の肥料切れが問題となる。一定期間経過してから肥効があらわれるシグモイド型肥料の混合施用でも肥料切れは回避できず,慣行肥料による追肥が必要であった。
減肥率に関しては,収量や生育後半の葉色から50%では栽培できず,30%までと考えられた。また,慣行栽培で使用している肥料の条施用による30%の減肥では,直播栽培では生育が明らかに劣り,塩類障害を受けたと考えられた。
以上のことから,エコロング40の肥効調節型肥料と慣行の肥料による追肥を組み合わせた30%減肥の栽培法を次のように検討した。
エコロング40を全量基肥として施用した区と,追肥と組み合わせ,その割合を変えた区と,慣行施肥の計4区を設定した。対照区の慣行施肥以外は30%の減肥とし,1区4.5㎡で30株植えの3反復で試験を行った。

播種は2007年9月11日。基肥として9月11日に,エコ40のすべての試験区にエコロング40を,深さ5cmに掘った溝にすじ状に施用した。対照区にはナバナ専用16(16-20-14)をベッド上に全面施用し,ロータリー耕を行った。追肥は燐硝安加里(16-10-14)を4回に分けて株間に施用した。収穫期間は11月29日から3月3日までとした。

1区あたり16株を調査した。収穫物については出荷可能のものと不可能のものに分けた。出荷可能のもの(可販)については,花蕾の色によってA(緑が濃い)とB(やや薄い)の2種に分けて調査した。収穫重量については長さ12cmに調整して調査した。
可販重量(品質A,B,A+B)は,いずれも対照区が最も多く,エコ40区が最も少なかった。品質B及びA+Bの重量は統計的有意差がなかったが,品質Aの重量では有意差が認められた。束出荷の際,10aあたりの収量の目安は600~800kgであるが,それを満たしているのはエコ40・追肥1区と対照区であった(表2)。

育苗セルは128穴セルを用い,育苗培土与作N15に被覆燐硝安2411-70s(24-1-1)をセル内に1トレイあたり250g,500g,750g,1,000g混和し,それぞれに基肥無し区と基肥有り区を組み合わせた8区と対照区で9区とした。各試験区はセルトレイ1枚で反復なし。


2005年9月20日にセルトレイに播種し,10月12日に本圃に定植した。ベッド幅100cm,通路40cm,株間30cmの2条植えとし,基肥と追肥はナバナ専用16(16-20-14)を用い,基肥は10月7日に全面全層施肥,追肥は11月16日と12月9日の2回に分けてベッド上に全面施用した。収穫期間は1月6日から3月13日までとした。1区4.5㎡で30株植えで試験した。
セル内施肥を行っても,発芽に及ぼす影響は全くなく,いずれの試験区も順調に生育した。定植時における苗の生育は,セル内施肥量が多いほど,胚軸長は短く,草丈が長く,茎が太く,地上部重が重く,葉色が濃かった。根鉢の形成は最も施肥量の多い1,000g区でやや劣ったが(表4),定植時の苗の取り扱いに困ることはなかった。

可販収量は基肥なしの250g区,500g区以外では,全て対照区を上回る結果となり,葉色も基肥なしの250g区以外では,対照区よりも濃かった(表5)。

今回紹介した試験結果は,全て水稲栽培後の水田で行った結果であり,畑地では減肥栽培でもより多くの収量をあげることが可能と思われる。
●食用ナバナにおいて,エコロング424-40の肥効調節型肥料を条施用し,慣行の肥料による追肥を組み合わせて行う30%の減肥栽培では,それなりの収量を得ることができる。
食用ナバナは一度肥料を切らせてしまうと回復するのに時間がかかり,後の収量にも影響があるが,エコロング424-40の肥料を使うことで,1回目の追肥の施用時期に幅をもたせることができると考えられる。1回目の追肥の時期は雨が多く,他の作業も重なるため,作業的なメリットもあると考えられる。
●移植栽培におけるセル内施肥は,減肥に有効な手段と考えられた。128穴のセルトレイでは,被覆燐硝安2411-70sをセル内に1トレイあたり750g施用するのが適当と考えられた。かん水設備が整い,移植栽培が可能な圃場ではセル内施肥は,肥料コストの点からも非常に有望である。